大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 昭和53年(行ウ)8号 判決

奈良市三碓町二、一六五の一

原告

服部勇

右訴訟代理人弁護士

吉田恒俊

右訴訟復代理人弁護士

佐藤真理

市登大路町 奈良合同庁舎

被告

奈良税務署長

上田富雄

右指定代理人

饒平名正也

太田吉美

松本有

西谷仁孝

石田俊雄

志水哲雄

鈴木淑夫

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

被告が原告の昭和四八年分ないし同五〇年分の所得税につき、昭和五二年二年二八日付でなした各年分の総所得額及び所得税額を昭和四八年分につき、金三一五万四、二六四円及び金三一万三、八〇〇円、同四九年分につき金一八四万一、九一八円及び金五万四、〇〇〇円、及び同五〇年分につき金二九五万七、七一六円及び金一七万一、二〇〇円とする各更正処分(右金額はいずれも異議申立決定により一部取消された後のもの)のうち、昭和四八年分につき総所得額金二六六万二、六五八円、所得税額金二一万九、七〇〇円、同四九年分につき同金一五二万九、八三一円及び同金二万二、二〇〇円、及び同五〇年分につき同二五七万二、〇七九円及び同金一一万九、四〇〇円を各こえる部分をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三、請求原因

(一)  原告は昭和四八年ないし五〇年の各年分の所得税につき次のとおり申告した。

昭和四八年分 一八〇万円 八万八、七〇〇円

昭和四九年分 一八〇万円 四万九、八〇〇円

昭和五〇年分 一九〇万円 四万二、一〇〇円

(上段が総所得額、下段が税額)

(二)  被告は、これに対し昭和五二年二月二八日付で次の如き更正処分をなした。

昭和四八年分

六二五万二、八一七円 一一九万四、八〇〇円 五万五、三〇〇円

昭和四九年分

三〇四万〇、二七三円 二一万二、五〇〇円 八、一〇〇円

昭和五〇年分

五〇八万四、四七一円 五四万七、八〇〇円 二万五、二〇〇円

(上段総所得額、中段税額、下段加算税、以下同じ)

(三)  原告の異議申立に対し、被告は昭和五二年七月六日付で原処分を一部取消して次のとおり異議決定をなした。

昭和四八年分

三一五万四、二六四円 三一万三、八〇〇円 一万一、二〇〇円

昭和四九年分

一八四万一、九一八円 五万四、〇〇〇円 〇円

昭和五〇年分

二九五万七、七一六円 一七万一、二〇〇円 六、四〇〇円

(四)  原告の審査請求に対し、国税不服審判所長は昭和五三年八月一六日付でこれを棄却する旨の裁決をなした。

(五)  しかしながら本件課税手続には次のような違法がある。

1、昭和四一年四月に奈良民主商工会(以下奈良民商という)が設立されて以降約一〇年間、会員に対する税務署の事後調査に際しては、民商事務局員が会員の所得の計算等について、助言をする等して納税者の権利や主張を無視した違法な調査が行なわれないよう立会することが慣行として定着し、全くトラブルはなかった。昭和四九年までは、事後調査の結果、納税者の言い分が認められたり、逆に、納税者が誤りを認めて修正申告をしたりすることはあったが、民商会員に対する更正決定は皆無の状態であった。

ところが、昭和四九年以降二年半の間に、民商会員に対する更正決定が一一件、訴訟に至ったのが七件も生じている。本件処分はその一つであり、民商に対する不当弾圧という違法な目的にによってなされたことは明白である。

昭和五一年一〇月頃、板垣正三税務署員が原告宅を訪れ、その際原告が民商事務局員にも立会してもらう旨告げたところ、板垣は「民商は団体として認めていない。」旨の発言をなした。その一週間程後の約束の期日に、原告宅を訪れた板垣は、民商事務局員東信治の顔をみるや「民商の人がいたら調査できんので帰る。」の一言を残して帰っていった。以後、板垣調査員は、原告側に資料提供を求める等の調査を全く行おうとせず、銀行調査等の反面調査に着手し、昭和五二年二月二八日被告は不当にも更正処分をなした(もっとも、昭和五一年末頃、一度竹本調査員の調査が行なわれ、原告は東事務局員とともに、所得計算について説明をする機会が与えられたが形式的事情聴取にとどまり、原告の主張はその後の処分では全く無視されている。)

2、被告の課税処分は全く根拠のない不当なものである。

原告の昭和四八年ないし昭和五〇年の所得についての被告の主張は更正処分及び異議決定の段階については前記のとおりである。審査請求の段階では

〈省略〉

であると主張し、国税不服審判所長は

〈省略〉

と判断している。

右に見るように原告の所得金額に関する被告の主張は、めまぐるしく変転しており、これ自体被告の課税処分がいかに根拠の薄弱なものかを告白している。

被告は更正決定の段階、異議決定の段階、審査請求の段階で再々原告の取引銀行や取引先に調査をくり返し、本訴に至って、またもや所得金額についての主張を変更し、更に、再三、再四、取引銀行をはじめ、取引先に調査を続行している。

被告が自己の主張を裏づけるべく提出した書証は、原告作成名儀のもの(乙第一、二号証)と法規等(乙第一四号証)を除くと、その大部分が本件訴訟後の調査によって入手したものばかりである。

被告の執ような調査によって、原告は取引先を失ったり信用が低下する等の著しい損害をこうむった。

また奈良民商にとっては、昭和四九年九月から二年半に及ぶ不当弾圧の時期に、約一〇名が退会するという打撃を受け、その意味では、被告の目的は一時的に達成されたのである。

いうまでもなく納税は国民の義務である。国はすべての国民から税金を強制的に徴収する権限を有しており、税収入によって国を運営しているのである。従って税の徴収においては公平であることが大切であり、調査権の発動の際には、濫用にわたることのないようその影響力に十分に意を払うことを要請される。再三、再四の調査があっても被調査者の信用には影響があるとは考えないというような感覚で、強引な調査を繰り返すことは国税調査権行使の濫用にわたり、到底許さるべきではない。

(六)、原告がその後調査した結果、各年分の総所得額は次のとおりである。

1、昭和四八年分

(1) 収入金額は金二八三二万六一四一円である。郡山(現奈良)信用金庫学園前支店の原告名義普通預金入金額(上記金額)は認めるが国民金融公庫奈良支店に対する昭和四八年九月一九日付一括返済額一〇〇万円は否認する。同一〇〇万円は、訴外吉井敬治に対する貸金の返済金であり、原告の収入に算入すべきでない。

なお、被告は、本訴に於て、昭和四八年分の収入についての主張を訂正したが、右訂正は認めない。なお、昭和四八年分の収入については、国税不服審判所長の裁決においても、二八三二万六一四一円であると認定されている。

(2)、必要経費は二五六六万三四八三円である。

収入金額に原告の昭和五〇年分の必要経費率(後掲)を乗じて算出する。

(計算) 28,326,141×0.906=25,663,483

(3)、よって所得金額は二六六万二六五八円である。

(計算) 28,326,141-25,663,483=2,662,658

2、昭和四九年分

(1)、収入金額は一六二七万四七九七円である。

(2)、必要経費は一四七四万四九六六円である。

収入金額に原告の昭和五〇年分の必要経費率を乗じて算出する。

〈省略〉

必要経費の計算=16,274,797×0.906=14,744,966

(3)、よって所得金額は一五二万九八三一円である。

計算=16,274,797-14,744,966=1,529,831

3、昭和五〇年分

(1)、原告の収入金額は、金二七三八万八四七〇円である。被告の主張のうち「その他銀行入金額四八五万円」は否認するが、その余は被告主張と同じである。

同入金額のうち四二〇万円(昭和五一年一月五日(昭和五〇年一二月三一日)入金の五〇万円と三七〇万円)は昭和五一年一月一二日から始めた小島宅の造園工事の前請金(材料仕入れ費用)である。その余は訴外吉井敬治に対する貸金の返済金、銀行や国民金融公庫からの借入金、不動産の譲渡益(工事代金の代わりに不動産を交付されることが二、三回あった。この不動産を転売して得た譲渡益については、別途分離課税による、既に納入済である。)であり、原告の収入金額に算入すべきではない。

(2)、原告の昭和五〇年分の必要経費は、二四八一万六三九一円であり、これは減価償却費を除き被告主張と同じである。

減価償却費は金 二六六万七三〇〇円である。その内訳は左の通りである。

イ、クレーン 昭和47.10 〈省略〉

ロ、ブルドーザー 昭和47.12 〈省略〉

ハ、トラック 昭和49.1 (昭和50年10月にエンジン修理代として17万円を投入)

〈省略〉

〈省略〉

ニ、トラック 昭和46 〈省略〉

ホ、乗用車 昭和48 〈省略〉

ヘ、チェンソー 昭和49 〈省略〉

(3)、よって、所得金額は、二五七万二〇七九円である。

(計算) 27,388,470-24,816,391=2,572,079

(七)、よって、本件更正処分は手続き上及び実額において違法であり、原申の申告額にも誤りがあったので、その取消を求めるため本訴に及んだ。

四、請求原因に対する認否

(一)、請求原因(一)ないし(四)の事実は、認める。

(二)、同(五)ないし(七)の事実又は主張は、争う。

五、被告の主張

(一)、課税の経緯について

1  原告は、奈良市三碓町山田二、一六五の一において造園業を営む者である。

被告署長の部下職員は、原告の本件係争各年分の所得調査のため、昭和五一年九月一四日以降同年一二月二七日まで四回にわたり原告宅へ臨場し、原告に対して係争各年分の所得金額算定の基礎となるべき帳簿請求書及び領収証等の提示を求めたところ、原告は、所得金額計算の基礎となるべき帳簿等一切提示せず各係争年分の確定申告書に記載されている所得金額の計算内容についても具体的な説明をしなかった。

そこで被告署長は原告の取引銀行等を調査して、本件係争各年分の所得金額を計算したところ、原告の申告額を上回ったので、本件各更正処分をなしたものである。

2、原告は、本件処分は民商に対する不当弾圧という違法な目的意図によってなされたものである旨縷縷主張するがそのような事実はないし、本件更正処分は、適法になされたものであるから、原告の課税手続が違法であるとの主張は理由がない。

(二)、原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得金額)は以下述べるとおりであり、その範囲内でなされた本件更正処分(ただし、異議決定による一部取消後の金額)何ら違法はない。

1、昭和四八年分

(1) 収入金額 二、九九二万六、一四一円

内訳

イ、郡山(現奈良)信用金庫学園前支店原告名義普通預金入金額 二、八九二万六、一四一円

ロ、国民金融公庫奈良支店に対する昭和四八年九月一九日付一括返済額 一〇〇万円

(右金額は原告がイの普通預金口座を経ずに収入金額から支出したと認められる。)

(2)、必要経費 二、二三四万五、八四九円

収入金額に、原告の昭和五〇年分の必要経費率(収入金額に占める必要経費の割合)を乗じて算出したものである。

(収入金額) (必要経費率) (必要経費)

計算=29,926,141円×74.67%=22,345,849円

(円未満切捨て以下同じ)

(3)、所得金額 七五八万〇、二九二円

(収入金額) (必要経費) (所得金額)

計算=29,926,141円-22,345,849=7,580,292円

(4)イ、原告は、国民金融公庫奈良支店に対する昭和四八年九月一九日付一括返済額一〇〇万円は、吉井からの貸付金返済額を充てたものであると主張するが、その事実を裏付けるべき証拠は何一つ見当らないし、そもそも、原告と吉井との間における金銭消費貸借の存在そのものに疑問のあることは後述のとおりであるから、吉井の供述のみを根拠とする原告の主張は到底正当なものと認めることはできない。

ロ、被告は、郡山信用金庫(現奈良信用金庫)学園前支店の原告名義普通預金への入金額二八九二万六一四一円を、原告の昭和四八年分の収入金を構成するものであると主張したところであるが、これは、右普通預金入金額のうち、原告の昭和四八年分の収入金額と認められる金額を集計した結果であって、他に何らの意味をもつものではない。

原告は、裁決庁においても同年分の収入金額を二八三二万六一四一円と認定していると主張するが、収入金額というべき当該普通預金への入金額の合計額が前記のとおりとなっている以上、裁決庁の認定額とは何らかかわりがない。

2、昭和四九年分

(1)、収入金額 一、六二七万四、七九七円

(原告の申立額、審査請求時に大阪国税不服審判所へ申し立てた金額、以下同じ)

(2)、必要経費 一、二四〇万七、九〇五円

収入金額に、原告の昭和五〇年分の必要経費率を乗じて算出したものである。

(昭和50年分必要経費) (必要経費率)

〈省略〉

(昭和50年分収入金額) (小数第3位切上げ)

争いのない収入金額一六二七万四七九七円に、原告の昭和五〇年分の必要経費率七四、六七パーセントを乗じて計算すると、原告の同四九年分の必要経費の額は、一二一五万二三九〇円となる。

(3)、所得金額 四一二万二、四〇七円

計算 (収入金額) (必要経費) (所得金額)

16,274,797-12,152,390=4,122,407円

3、昭和五〇年分

(1)、収入金額 三、二二三万八、四七〇円

内訳

〈省略〉

(2)、必要経費 二、四〇七万〇、八七六円

内訳(次の合計額から後掲五〇万四、九〇〇円を控除する。)

イ、仕入金額 九、八七九、八六五円 (原告の申立額)

ロ、租税公課 四一、五〇〇円 ( 同 )

ハ、接待交際費 一〇七、〇〇〇円 ( 同 )

ニ、修繕費 三八〇、九〇〇円 ( 同 )

ホ、福利厚生費 五〇、〇〇〇円 ( 同 )

ヘ、諸会費 五九、〇〇〇円 ( 同 )

ト、減価償却費 二、四二六、六八五円 ( 同 )

チ、消耗品費 七三一、九二〇円 ( 同 )

リ、雑費 一四、〇〇〇円 ( 同 )

ヌ、給料賃金 四、〇〇〇、〇〇〇円 ( 同 )

ル、外注工賃 六、五四三、〇〇〇円 ( 同 )

オ、支払利息 三四一、九〇六円 ( 同 )

(3)、所得金額 八一六万七、五九四円

(収入金額) (必要経費) (所得金額)

計算=32,238,470-24,070,876円=8,167,597円

(4)、なお、原告の主張は事実に反し、かつ合理性に欠けるものであるから、以下、これらの点を明確にする。

原告は、被告主張の昭和五〇年分の収入金額のうち「その他銀行入金額」四八五万円を争うと主張する。

ところで、原告の昭和五〇年分の収入金額の入金月日別売上先別の内訳は別表のとおりであるから、原告が争うというのは、昭和五〇年一二月四日に奈良信用金庫学園前支店原告名義普通預金口座に現金入金された六五万円及び同月三一日同信用金庫富雄支店原告名義の別段預金に現金入金され、翌昭和五一年一月五日同預金から出金されて前記普通預金口座に振込入金された三七〇万円と五〇万円の合計四二〇万円とである。

イ、このうち昭和五〇年一二月四日入金の六五万円について、原告は、訴外吉井敬治(以下「吉井」という。)に対する貸金の返済金、銀行や国民金融公庫からの借入金、不動産の譲渡益であると主張するのであるが、これらの内訳を明らかにせず、本人尋問において吉井に対し金銭を貸付け、また返済をうけたと供述するのみである。

もっとも、吉井もその証人尋問において、原告との間で金銭の貸借関係があった旨供述するけれども、両者の間では金銭消費貸借に関する書面その他金銭の収受並びに返済に関する書類は一切作成されなかったというのであり、このようなことは、仮に両者の間に親密な関係が存したとしても極めて不自然不合理であるといわざるを得ないこと、原告は昭和五〇年一二月四日入金の六五万円が原告の売上金であるか否かが本件の争点の一つであることを十分認識して右入金の出所の一つとして右吉井に対する貸金の返済を主張しているのであるのに、仮に返済が真実であるとすれば時期的に符号すると思われる右吉井に対する昭和五〇年中の金銭の貸付及び返済の時期すらも明らかにできないのであり、吉井もまた同様であること等にかんがみると、同年中に原告が主張するような金銭の貸借関係が存在したこと自体極めて疑わしいし、仮に貸金の事実があったとしてもその返済が昭和五〇年一二月四日又はそれに近い日に行われたとすることはなおさら疑問が残るといわざるを得ない。このほか原告は、当該入金額が銀行又は国民金融公庫からの借入金によるものであるといいながら、その具体的内容を明らかにしないし、被告の調査したところによっても、その頃原告が銀行又は国民金融公庫からこのような金額を借入れた事実は認められない。

また、不動産譲渡益による入金の主張について検討してみても、原告は昭和四八年分から同五〇年分までの所得税につき譲渡所得の申告をしていないのであるから、右三年間において不動産譲渡益は存しなかったものと認められる。そうすると、原告の右主張は、昭和四七年以前に不動産譲渡益があって、これが前記六五万円の全部若しくは一部を構成しているということにあると思われるが、仮に昭和四七年以前に不動産譲渡益が発生していたとしても、それがその後三年間保持されて前期六五万円の出所となったものとすることは、極めて非現実的にして不自然不合理であり、ありえないことといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、貸付金の返済金、銀行等からの借入金及び不動産の譲渡益を前記普通預金口座に入金したとの原告の主張は事実に反するものといわなければならない。

ロ、次に、原告は、昭和五〇年一二月三一日奈良信用金庫富雄支店に現金入金された三七〇万円と五〇万円について訴外小島男佐夫(以下「小島」という。)からの昭和五一年の造園工事に係る前受金である旨主張する。

しかしながら、小島がこの頃原告に対して右金額を支払った事実はないし、原告に対する小島の支払いは、すべて銀行振込みによっていることは原告も自認するところであるから、右入金額が小島からの前受金でないことは明らかである。

ハ、原告が事業所得に係る収入金額を原則として前記普通預金口座に入金していたことは原告も認めるところであるが、以上のとおり、右預金入金額が売上以外から生じたものであることを証明する資料はなく、かつ、営業外収入の預け入れ、又は、他の年分の事業所得に係る収入金の預け入れであることを証明する資料も全くないことからすれば、「その他銀行入金額」四八五万円はいずれも原告の昭和五〇年分の事業所得の収入金額とみるほかない。

5、必要経費について

イ、原告は、昭和五〇年から同五一年にかけて自らが所有する奈良市六条町の山林(事業外資産)の宅地造成工事(以下「本件工事」という)を実施したが、この工事金額は約一八〇万円、昭和五〇年中の工事進行割合は約三〇パーセントであるから同年中の工事出来高は五四万円である。

また、本件工事による利益率は六・五パーセント程度であったというのであるから、昭和五〇年中の工事原価の額は五〇万四九〇〇円である。

(工事出来高) (原価率) (工事原価)

540,000円×(1-0.065)=504,900円

ところで、本件工事は、右山林に隣接する大貴興産所有地の宅地造成工事と併せて原告が施行したものであり大貴興産からの収入金額一五六万五五〇〇円が昭和五〇年分に計上されているところからすると、本件工事に係る工事原価は大貴興産分と区分計算されることなく、全て原告の昭和五〇年分の必要経費に算入されているとみるべきである。

そうすれば、被告が当初主張した昭和五〇年分の必要経費の中には、原告の事業所得の金額の計算上必要経費とはならない五〇万四九〇〇円が含まれていることとなるのでこれを除いて計算すべきであり、その結果同年分の必要経費の金額は二四〇七万八七六円となる。

ロ、原告は、昭和五〇年分の必要経費のうち、減価償却費の額のみを争うと主張する。

しかしながら、原告は審査請求の段階において大阪国税不服審判所の担当審判官に対して、昭和五〇年分の減価償却費の額は二四二万六六八五円であり、自らの主張額が全面的に認められているので、特に争いはない旨申立てており、本訴においても当初は必要経費の金額は利益に援用すると主張して積極的に争わなかったのであるから、前記主張は全く一貫性を欠き、合理的な計算の根拠はないものというべきである。

なかでも原告は、ダンプ式トラックの取得の時期を昭和四六年とし、同五〇年分の減価償却額を三五万三二五〇円と計算しているが、ダンプ式トラックの耐用年数は四年であるから、これを事業の用に供したのが昭和四六年であるならば、同五〇年分の償却額は月数による按分計算をすべきである。

また、原告は乗用車の耐用年数を四年としているが減価償却資産の耐用年数に関する省令別表一によれば、乗用車の耐用年数は六年であるから、原告の乗用車に係る減価償却額の計算は、右省令の規定の適用を誤っていること明らかである。

このように、変更後の原告主張については、判明する部分についてみただけでも誤りがあるのであるから、判明しない取得時期、取得価額、資産の種類・構造等は到底正当なものとは認められない。

六、証拠

本件記録中の書証目録および証人等目録記載のとおり。

理由

一、原告は、被告の本件更正処分手続に違法があると主張するけれども、いわゆる税務調査に際し、税務職員が、有資格者でない第三者の立会を拒否したからといって、右調査手続が違法となるわけではなく、原告主張にかかる弾圧目的のための処分であることを認めるような資料はなくその他の事由は、弁論の全趣旨に照らし、本件更正処分の取消事由となし難いことが明白であるから、右主張は採用できない。

二、そこで本件更正処分の内容について検討する。

(一)  成立に争いのない乙第一号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は、植富の商号で造園業を営む白色申告者で、入出金額等を確実に記帳した帳簿書類等は全然保管せず、自己の収入は、金融機関にすべて預金の形式で入金し、経費は、小切手を振出して、預金から出金していたものであることが認められる。

(二)  昭和五〇年分所得について

1  原告の同年中の収入金額については、被告主張の内訳中「その他銀行入金額四八五万円」を除き争いがない。

ところで、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、証人河本省三の証言とこれにより成立を認めうる同第七号証の一ないし三によれば、原告は、昭和五〇年一二月三一日、奈良信用金庫富雄支店に、五〇万円と三七〇万円の二口の別段預金をなし、同信用金庫は、これを、翌五一年一月五日、同信用金庫学園前支店の原告の普通預金口座に振替入金していることが認められ、これに反する証拠はない。原告は、右入金は、昭和五一年一月一二日から始めた訴外小島男佐夫宅の造園工事の前渡金であったと主張し、原告本人尋問の結果中には同旨供述部分が存するけれども、証人鈴木淑夫の証言とこれにより成立を認めうる乙第一二、一二号証の各一、二と比較してたやすく措信し難く、却って右証拠によれば、右入金は、原告の自己振込みであり、事業収入と推定するのが相当である。

次に前掲乙第三号証の一ないし三によれば、昭和五〇年一二月四日原告の奈良信用金庫学園前支店普通預金口座に六五万円が入金されている事実を認めうるところ、原告は、訴外吉井敬治に対する貸金の返済金であるとか、銀行や国民金融公庫からの借入金であるとか、不動産の売却益であるとか主張し、証人吉井敬治の証言によれば、同人と原告との間に金銭の貸借関係が存在したことはこれを認めることができるけれども、右入金が、その返済金であること、もしくは原告主張にかゝるその他の入金であるとの事実は、認めるような資料がないので、原告の右主張は採用できない。そして、他に格別の資料はないから、右六五万円も原告の事業収入金と推定するのが相当である。

2、次に、被告主張の必要経費中、減価償却費および奈良市六条町の山林の宅地造成工事原価五〇万四、九〇〇円を除き、その他については争いがない。

まず減価償却費については、原告本人尋問の結果とこれにより成立を認めうる甲第一、二号証によれば、昭和四六年に購入したというダンプ式トラック一台については、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一四号証減価償却資産の耐用年数に関する省令別表によれば、その耐用年数は四年であるから、昭和五〇年分の償却額は、月数による按分計算をすべきところ、これを認めるような資料は全くないので、結局採用できないし、又、前記省令によれば、乗用車の耐用年数は、六年であるから、原告主張の金額によればその償却額は二一万円となり、減価償却費総計は、前掲乙第一号証によって認められる原告の審査請求時の当初申立額二四二万六、六八五円を下回わることが明らかであるから、原告に有利な当初申立額によるのが相当である。

しかしながら、被告主張の宅地造成工事原価については、その収入が、前示収入金額に算入されている以上、経費の申立額にも算入されていたものと推定すべきであるから、その原価のみを控除することは、不当であるといわなければならない。

3、そうすると、原告の昭和五〇年分の要経費の総額は、二四五七万五、七七六円となるので、前示収入金額三二二三万八、四七〇円から右必要経費額を控除した残額七六六万二、六九四円が、同年分所得金額と認めるのが相当である。

(三)  昭和四九年分所得について

同年の収入金額については争いがなく、必要経費の実額を認定すべき資料はないので、推計計算するほかなく、右収入金額に、昭和五〇年分の必要経費額を同年分収入金額で除してえた必要経費率七六・二四パーセントを乗ずると、昭和四九年分必要経費額一二四〇万七、九〇五円を得ることができるので、前示争いのない収入金額一六二七万四、七九七円から右必要経費額を控除した残額三八六万六、八九二円が、昭和四九年分所得金額と認めるのが相当である。

(四)  昭和四八年分所得について

同年分の収入金額については、被告主張にかゝる国民金融公庫奈良支店に対する同年九月一九日付一括返済額一〇〇万円を除き、その余の額については成立に争いがない乙第三号証の二によれば二八八二万六一四一円と認められ、他にこれに反する証拠は存しない。(被告の金額変更は誤算によると認める。)

ところで、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、証人河本省三の証言とこれにより成立を認めうる同第九号証並びに原告本人尋問の結果の一部によれば、右日時に、原告が、国民金融公庫からの同年三月二六日借入金三〇〇万円の元金の内入れとして、一二〇万円を支払ったこと、そのうち二〇万円は、奈良(旧称郡山)信用金庫学園前支店普通預金口座からの払戻金の入金である事実を認めることができ、これに反する証拠はない。そして、残り一〇〇万円の出所につき、原告は、訴外吉井敬治に対する貸金の返済金を充てたと主張し、証人吉井敬治の証言によれば、同人と原告との間に金銭の貸借関係の存在した事実は、前記認定のとおりである。しかしながら、前示一〇〇万円が、その返済金であるとの点については、同証人の証言によっても、これを確認することができず、原告本人尋問の結果中には同旨供述部分がなくはないけれども、右証言と比較してたやすく措信し難く、その外には認めるに足る証拠はないので、結局事業収入による入金と推定すべきである。

そこで被告主張にかゝる同年分収入金額から、これに前示昭和五〇年分必要経費率を乗じて得た必要経費額を控除すると、昭和四八年分の所得金額は、七〇八万六、六九二円と認めるのが相当である。

三、以上によれば、被告が昭和四八年分ないし同五〇年分所得税について、前記認定の各所得額の範囲内でなした本件各更正処分(異議決定額)は、いずれも適法であり、その取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

四、よって訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲江利政 裁判官 山田賢 裁判官 三代川俊一郎)

別表

昭和50年分収入金額の入金日別内訳明細表

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例